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東京高等裁判所 平成6年(行コ)181号 判決

控訴人

赤田圭亮

控訴人

村上芳信

控訴人両名訴訟代理人弁護士

新美隆

藤沢抱一

被控訴人

横浜市人事委員会

右代表者委員長

西脇巖

右訴訟代理人弁護士

渡辺徳平

渡辺穣

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が、控訴人らの平成二年九月一三日付けの勤務条件に関する措置要求について、平成三年四月一七日付けでなした判定を取り消す。

3  訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文第一項同旨

第二当事者の主張

原判決三枚目裏六行目(本誌六六八号〈以下同じ〉37頁2段29行目)の「命じないものとし」の次に「(六条)」を加え、同八行目(37頁3段1行目)の「教育職員会議」を「教職員会議」に、同一〇行目(37頁3段6行目)の「(六条)」を「(七条)」に、同五枚目裏二行目(38頁1段4行目)の「教育職員」を「教職員」にそれぞれ改め、同六枚目表四行目(38頁1段27行目)の「以下、」の次に「右覚書を「本件覚書」、右了解事項を「本件了解事項」といい、」を加え、次のとおり、当審における当事者双方の主張を付加するほかは、原判決事実摘示欄の第二項ないし第五項のとおりであるから、これを引用する。

「(控訴人らの当審主張)

「時間による回復措置」の意味及び根拠についてその要点を述べると次のとおりである。

一  本制度は、給特法や県給特条例等を踏まえて、横浜市教育委員会と組合間の交渉を通じて合意され、さらに教育委員会と校長会等との協議を経て正規の勤務時間の割り振りが確定された上で、制度化されたものである。その趣旨は、時間外勤務は原則として命じないとの原則から、時間外勤務を行った場合には、「時間外勤務の記録」中に校長の認印を受けて確認された超過時間数に対応する(一対一)時間を一週間以内を原則として実施しようとするものである。

二  これは、横浜市において、過去二〇年以上にわたって制度化されてきたものであって、「完全回復」や「部分回復」の言葉に示されるように、「回復」それ自体の内容について疑義があるわけではない。「一週間」を原則にしつつも、学校の運営上、その実施について種々の総合判断が必要とされ、校長にその限りで裁量の余地があることは事実であろう。しかし、回復されなければならない時間数は、「時間外勤務の記録」に未消化分として記載されるのであり、校長の裁量によって「回復」の必要性までが消滅してしまうのではない。『「時間外勤務の記録」について(送付)』と題する書面(〈証拠略〉)は、給特法及び県給特条例に基づき「教員に対し時間外勤務を命じ、それに伴う適切な配慮を行う場合に活用されたく」と述べているが、これは、「時間による回復」制度を前提にしなければ全く意味をなさないものであることが明らかである。同「留意事項」中に、「勤務時間の割り振り等により代休措置を講じる場合は除く」とあることからも、すでに「回復」措置を実施する必要がなくなった時間外勤務は記録する必要もないのであって「時間外勤務の記録」は、すべての時間外勤務の記録ではなく、校長において「時間による回復」を必要とするものの記録ということになる。

三  「時間による回復」措置制度は、給特法や県給特条例によって創設された特別な休暇や休日ではなく、給特法についての文部大臣訓令、次官通達、県条例施行通知などによってその運用上で指示された教育委員会及び校長の裁量権を前提にして、それを制度化したものに過ぎず、法令に違反するものでは毛頭ない。給特法が「配慮」せよ、といい、条例の施行通知が「適切な配慮」をせよ、と言う場合、既に法令によって認められている制度や運用を通じて、新しい法や条例の趣旨を実現するしかないのは全く当然のことであり、法令にその具体的内容が明示されていないことを理由にその具体化の努力を無視することは怠慢以外の何物でもない。また、法令によってその権限や裁量権がある場合、それを個別的に処理するか、または一定の基準を設定して制度化するかは裁量権限者の判断に属することである。制度化されることによって合法が違法に転化するものではないのである。

四  「時間による回復措置」を可能とする法令上の根拠としては、勤務時間の割り振り権限(教育委員会から校長に専決として委ねられている。)の他に、教育公務員特例法二〇条二項の研修(職務専念義務免除)や校務分掌の変更(学校教育法二八条三項)などが上げられる。研修の活用は、前記の次官通達でも指摘されているところであるが、この場合でも勤務時間中であることには変わりなく、ただ負担が質的に軽減されるに過ぎないことに留意すべきである。完全な休暇とは異なるのである。いずれにせよ、このような根拠を有する前提にたって成立している「時間による回復措置」を給特法の法意によって違法と断ずる本件判定が取り消されなければならないことは明らかである。

(被控訴人の当審主張)

一  本件措置要求3に対する本件判定の正当性

1  本件措置要求3の内容について

(一) 本件措置要求書の記載内容

(1) 控訴人らが被控訴人に提出した本件措置要求書の「(2)措置を要求する内容について」の項(以下、単に「「措置を要求する内容についての項」」という。)〈3〉には、神奈川県教育委員会教育長から各県立学校長・各地教委教育長宛て通知「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置に関する条例の施行について」1、(6)、オの「適切な配慮」を具体化したところの「覚書・了解事項」の「時間による回復措置」が本件措置要求の内容である旨記載されている。

(2) 本件措置要求書の「(3)措置を要求する理由について」の項(以下、単に「「措置を要求する理由についての項」」と言う。)〈2〉「教育の勤務体系の特異性」においては、「とりあえずは最低限の要求として、『回復措置(時間)』の厳守と、それを可能にするための具体的諸措置の実施を求めているのに過ぎない。」と記載されている。

(二) 本件措置要求書にいう「時間による回復措置」の内容について

控訴人らは、本件措置要求書において「時間による回復措置」の内容について具体的には述べていないが、次に述べるような理由から、「勤務を要しない時間の付与」としか理解し得ないものである。

(1) 控訴人らは、「措置を要求する内容についての項」〈3〉で、本件了解事項を引用しているところ、本件了解事項4項では、「回復措置の方法は、手当または時間によるもの」としており、右の文脈から考えて、「手当」と並列された「時間」とは、「勤務を要しない時間」を意味するものと解さざるを得ない。

(2) 控訴人村上芳信は、原審における本人尋問において、本件控訴人ら訴訟代理人の質問に答え、(1)時間による回復の性質につき、「それが年休なのか何なのかということは、教育委員会と組合が結んだ覚書の中に回復時間という形でありますから、年休とか研修とか職専免とか、そういうのと同じように、新しく給特法、それにかかわる覚書、了解事項で作られた休暇の一種というか、そういうものだと理解しておりました。」と述べた上、本件控訴人ら訴訟代理人から「校長さんのほうでは、対外的には何か研修だというふうに説明するほうが多かったというのは事実なんじゃないですか。」と質問されると、「村上は回復で休んでおりますということは市民に対してまずいので、そういうことは言わないで、その場合は研修という形で言いなさいということで、校長からそういうあれがありました。」と供述した。(2)さらに本件被控訴人代理人から「回復措置というのは休暇の一種と思っていたというふうな証言がございましたね。」と質問されて、「はい。」と答え、「それは休暇の一種と考えておったのは、あなた自身、そう思っておったということですか。」と質問されて、「年休だとか、職免だとか、そういうのと同じように回復というものがあるんだな、それから組合のほうからも分会長会合でそういう説明を受けましたので、そういうものだと理解していました。」と供述し、「休暇の一種と理解していた」と質問されて、「休暇の一種というか、職免とかそういうものと一緒に、新たに。」と供述し、「学校を各自休んでいいんだということね。」と質問されて、「そうです。」と答えた。

(三) 控訴人らの原審準備書面(平成四年九月二二日付準備書面(四)及び平成六年二月二八日付準備書面(五))における主張について

控訴人らは、右各準備書面において、他の自治体の例を挙示して、「時間による回復措置」の内容を次のとおり主張している。

(1) 大阪府では、長時間の勤務をさせた場合は、「疲労回復のための勤務軽減に相当する方法」を講じるよう配慮する、「一日を単位として休養措置を講じる」としている。

(2) 愛知県では、大阪府とほぼ同様であるとし、さらに「土曜日については、四時間を超える場合においては他の日に調整するものとする。」、「日曜、休日に勤務することを命じた場合には代休日をできる限り与えるものとする。」としている。

(3) 東京都では、「深夜にわたる業務を行った場合は代休措置等を講じるものとし、その他時間外勤務についても原則として短縮措置により調整するものとする。」、「日曜、休日勤務が行われた場合は、振替、または、代休日の措置を講じるものとする。」としている。

(4) 北海道では、代休措置か時間単位の短縮措置を講じるものとしている。つまり、北海道の場合は、時間による回復措置を講じる旨定められているのである(とりわけ、この記述は、「時間による回復措置」が代休措置か時間単位の短縮措置であるとの控訴人らの主張の趣旨を明確にしたものである。)。

(四) 本件措置要求書のその他の記載「措置要求をする理由についての項」〈3〉において、「(回復時間の)厳守の要求は、これらの点の完全実施を意味するものである」と述べ、「カード(勤務時間の記録)の形式は時間外勤務の記録と回復措置とが一体、あるいは対応したものであり」と述べている。このことからすれば、控訴人らは、時間外勤務と一対一で対応する「時間による回復措置」を要求したとしか理解し得ないものである。

(五) 結論

右のような本件措置要求書及び控訴人らの原審での主張並びに控訴人村上芳信の原審供述によれば、控訴人らが、本件措置要求申立ての段階においてはもとより、原審の審理段階においても、「時間による回復措置」の内容を「勤務を要しない時間」すなわち実質的に休暇の一種と考えていたことが明らかである。

2  本件判定の内容

被控訴人は、「時間による回復」が実質的に休暇の付与であるとの趣旨でなされた本件措置要求3に対し、教職員の職務とその勤務態様の特殊性(時間による計測になじまない等)にかんがみて制定された給特法が、そのような「時間による回復措置」の付与を予定し、これを許容しているものと解することができないとして、これを棄却する本件判定をしたものであって、本件措置要求3の趣旨・内容の正しい理解に基づく正当な判断というべきである(原判決も、同様の理解に基づき、控訴人らの請求を棄却した。)。

二  「時間による回復」に関する控訴人らの主張の変容

控訴人らは、「時間による回復」について、本判決の「(控訴人らの当審主張)」の項のとおり、その主張内容を変更した。しかしながら、右主張内容の変更は、そのまま本件措置要求3の申立て趣旨の変更を招来するところ、右変更後の申立ての趣旨については、被控訴人の判断はなされておらず、もとより本件判定の対象となっていなかったのであるから、これを本件判定の取消の事由として主張することはできないものである。

三  控訴人らの当審主張に対する被控訴人の仮定的主張

仮に控訴人らの右主張の変更が許されるとした場合、被控訴人は右変更後の主張について次のとおり反論する。

1  教育公務員特例法二〇条二項の所属長の研修の承認について

(一) 教育公務員特例法二〇条二項の「研修」の意味

教師の研修には、〈1〉勤務時間外に行う自主研修、〈2〉職務専念義務(地公法三五条)を免除されて行う職専免研修、〈3〉職務として行う職務研修の三種類がある(昭和三九年一二月一八日大分県教育長宛文部省初中局長回答)。

〈1〉 勤務時間外に行う自主研修は、勤務時間外に行うもので、本条で特に定める必要がない、また、〈3〉職務として行う職務研修も、所属長の承認のもとに行われるものではなく、職務命令として行われるものである。そうすると、本条で意味する研修は〈2〉職務専念義務(地公法三五条)を免除されて行う職専免研修であるといえる。

(二) 職専免研修の承認は、服務に関する問題か、勤務条件に関するものといえるか。

職務専念義務の免除は、勤務時間中の服務に関する事項であり(地公法第六節「服務」、三五条「職務に専念する義務」)、これを承認するか否かの判断は必然的に公務の管理、運営と関連する。これを教育公務員特例法二〇条二項の所属長の研修の承認にあてはめれば、所属長(校長)は、公務運営上の影響の有無、程度等を考慮しなければならず、本条による研修を請求した教職員に対し、職務専念義務の免除の承認をするか否かは学校の管理運営事項と言わなければならない。同法同条同項が「授業に支障のない限り」との要件を特に規定しているのは、授業に支障がある場合には承認をしないものとして、所属長の承認権を拘束し、更に所属長の職務内容からみて、授業以外の公務運営上の支障の有無、研修の日程及び内容が職務に関連し、教員の資質、人格の修養と向上に寄与するか等の事情を考慮して、当否の判断を裁量的に行うことを規定したものと解されるので、本条の承認は、所属長の自由裁量による各学校の管理運営事項に該当することを明確に規定したものといえる。

したがって、職務専念義務の免除を承認するか否かは学校の管理運営事項である以上、教職員の勤務条件に関するものとはいえず、地公法四六条の措置要求の対象とはなり得ない。

当該研修が当該教職員にとって必要不可欠な研修であれば、研修の不承認を受けた当該教職員は、同研修を休暇、休日を返上して研修をせざるをえないことになるから、そのような研修の承認問題は、服務の問題といえども勤務条件にも関連する事項となる場合がある。しかし、そもそも控訴人らが当審で主張するところの研修には研修の目的がない。ということは、研修の不承認を受けた教職員は、同研修を休暇、休日を返上して研修をせざるを得ないということはない。したがって、本件における研修は教職員の勤務条件に関するものとはいえず、地公法四六条の措置要求の対象とはなり得ない。百歩譲って仮に本件における研修要求は勤務条件に関するものであったとしても、研修には当然研修の目的が必要であり、疲労回復のための実質休暇を目的とする研修の要求は不承認になるのは当然のことである。

2  勤務時間の割り振りについて

教職員の勤務時間の割り振りは、県から各学校長に委任されているので、論理的には、各学校長が勤務時間の割り振りを行うことは可能である。

しかし、教職員の勤務時間の割り振りは、地域住民等誰もが納得するものでなければ、その勤務時間の割り振りの実行は現実的に不可能となってしまう。そこで、横浜市においては、教育長通知で各学校長の勤務時間の割り振り権限を拘束し、勤務時間は、午前八時から午後四時三〇分までと統一的に行っている。

仮に、超過勤務した時間を「配慮」するため、右の午前八時から午後四時三〇分までの勤務時間の割り振りを、各教職員個別に変更したら、当該学校の授業経営が破綻することになるであろうことは想像に難くない。

また、勤務時間の割り振りは、常識的には全校一律に行われるものであるので、各個別の教職員について、短時間の内に、勤務時間の割り振りを変更できるかという問題も生じる。

3  校務分掌の変更(学校教育法二八条三項)について

学校教育法二八条三項にいう「校務」とは、学校の運営に必要な校舎等の物的施設、教員等の人的要素及び教育の実施の三つの事項につきその任務を完遂するために要求される諸般の事項を指す。本件に関連しそうな事項を具体的に挙げれば、教員の学級担任、各種主任、各種運営委員会等の担当が挙げられる。これらの事項は年度始めに決定される事項である。そもそも、これらの事項はいずれも学校の管理運営に関する事項であるので、勤務条件には該当しない。したがって、措置要求の対象にはならない。事実上の問題としても、これらの事項を各教職員個別に年度途中で変更すれば、学校経営が破綻することになるのは明白である。」(ママ)

第三証拠関係

原審記録中の書証目録及び証人等目録並びに当審記録中の書証目録の記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  控訴人らの地位・身分等

控訴人らの地位・身分(請求原因一の事実)、公立学校の教職員の時間外勤務に関する法令の内容(同二の1ないし3の事実)、本件措置要求申立ての内容(同三の事実)、本件判定の内容(同四の事実)は、いずれも当事者間に争いがない。

二  本件訴えの適法性、本件措置要求1及び2に対する本件判定の正当性について

本件訴えが適法であること、本件措置要求1及び2に対する本件判定が正当であることは、原判決の理由説示のとおりであるから、該当判示部分(原判決一一枚目裏八行目(39頁4段18行目)から同一三枚目表七行目(40頁2段15行目)まで。ただし、同一一枚目裏八行目(39頁4段18行目)の「二」を「(一)」に、同一二枚目表二行目(39頁4段27行目)の「三」を「(二)」に改める。)を引用する。

三  本件措置要求3に対する本件判定の正当性について

1  公立学校の教育職員の時間外勤務に対する法令の内容について

本件措置要求3が求めている「時間による回復措置」の具体的内容が、本件措置要求書(〈証拠略〉)の記載等から客観的にどのように解釈されるかはひとまず措き、本件措置要求3が、公立学校の教育職員の時間外勤務に対して「時間による回復措置」実施の勧告を求めていることが明らかであるから、公立学校の教育職員の時間外勤務に関し、関係法令がどのように規律しているかについて検討する。

(一)  請求原因二の1ないし3のとおり、従前公立学校の教育職員についても、一部の規定を除いて労働基準法の適用を受けるものとされ、同法三三条が適用されることはなかったところ、国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与その他の勤務条件についてその特例を定めた給特法は、国立の義務教育諸学校等の教育職員に対し俸給月額の一〇〇分の四の教職調整額を支給することとし(三条)、公立の義務教育諸学校等の教育職員についても国立の義務教育諸学校等の教育職員の例を基準として措置が講じられるものとするとともに(八条)、労働基準法三七条の時間外、休日及び深夜勤務による割増賃金に関する規定の適用を排除し、地方公務員である教育職員についても、同法三三条三項の休日及び時間外の勤務を命じることができるものとした(一〇条)。ただし、無定量、無制限に時間外勤務が行われないようにするため、給特法は、国立の義務教育諸学校等の教育職員について、時間外勤務は文部大臣と人事院が協議して定める場合に限るものとする旨、及びこの場合においては教育職員の健康と福祉を害することにならないよう勤務の実情について十分な配慮がなされなければならない旨を定め(七条一項)、公立の義務教育諸学校等の教育職員に時間外勤務をさせる場合にも教育職員の健康と福祉を害しないように考慮しなければならない旨(一〇条)、時間外勤務をさせる場合は、国立の義務教育諸学校等の教育職員の例を基準として条例で定める場合に限る旨(一一条)を定めた。そして、県給特条例は、教育職員に対しては原則として時間外勤務は命じないものとし(六条)、例外的に時間外勤務を命じることができるのは、(1)生徒の実習に関する業務、(2)学校行事に関する業務、(3)教職員会議に関する業務、(4)非常災害等やむを得ない場合に必要な業務に従事する場合で、かつ、臨時又は緊急やむを得ない必要がある時に限るものとした(七条)。また、教育職員に時間外勤務をさせる場合の健康と福祉を害することにならないための十分な配慮(七条一項)又は考慮(一〇条)の具体的な内容について、給特法及び県給特条例には規定がないが、昭和四六年七月九日付けの各都道府県知事あての文部事務次官通達「国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法の施行について」は、同法施行に当たっての留意点として、(1)教育職員については長時間の時間外勤務をさせないようにすること、(2)やむを得ず長時間の時間外勤務をさせた場合は、適切な配慮をするようにすること、(3)教育職員について、日曜日又は休日等に勤務させる必要がある場合は代休措置を講じて週一回の休日の確保に努めるようにすること、(4)教育職員に対し時間外勤務を命じる場合は、学校の運営が円滑に行われるよう関係職員の繁忙の度合い、健康状況等を勘案し、その意向を十分尊重して行うようにすること、(5)教育職員の勤務時間の管理については、教育が特に教育職員の自発性、創造性に基づく勤務に期待する面が大きいこと及び夏休みのように長期の学校休業期間があること等を考慮し、正規の勤務時間内であっても業務の種類・性質によっては、承認の下に、学校外における勤務により処理し得るよう運用上配慮を加えること、(6)いわゆる夏休み等の学校休業期間については教育公務員特例法一九条及び二〇条の規定の趣旨に沿った活用を図るよう留意することを指示し、市教委教育長は、昭和四七年一月一日付けの各学校長あての通知「『公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置に関する条例』の施行について」の中で、教育職員に対してやむを得ず時間外勤務をさせる場合は、学校の円満な運営を考慮し、適切な配慮がなされるものであることを指示した。

(二)  以上の法令、通達等を総合的に検討すれば、給特法や県給特条例の予定しないような無定量、無制限の時間外勤務が命じられたような場合はともかくとして、そうでない限りは、教育職員が時間外勤務をしたからといって、その勤務に対する何らかの対価請求権が発生するものではなく、また、県給特条例の定める例外的な場合に教育職員が時間外勤務をした場合の健康と福祉を害しないための配慮についても、時間外勤務に従事したことによって当然に具体的な措置を要求しうるというものではなく、当該時間外勤務に対しどのような考慮をするかは、原則として、学校長の裁量に委ねられているものというべきであり、したがって、何らかの具体的な措置を実施するかどうか、及びその内容については当該時間外勤務の内容や時間外勤務をした教育職員の健康状態、当時の学校の運営状況等に応じて学校長が裁量権を行使して決定すべきものであり、もとより、画一的に時間外勤務に見合うだけの時間について職務専念義務免除や勤務の質的軽減の措置をとることを学校長が義務づけられるものではないというべきである。

2  本件措置要求3の申立て趣旨について

本件措置要求書(〈証拠略〉)、本件判定書(〈証拠略〉)並びに弁論の全趣旨によれば、本件措置要求書には、「時間による回復措置」の内容に関する具体的な記述はないけれども、「措置を要求する内容についての項」」(ママ)〈3〉において本件了解事項が引用され、本件了解事項4項には、「回復措置の方法は、手当または時間によるもの」と記載されていること等から、被控訴人は、「手当」と並列された「時間」とは、「勤務を要しない時間」を意味し、したがって、本件措置要求3のいう「時間による回復措置」の完全実施とは「勤務を要しない時間」の付与を求めるものであって、県給特条例の許容しないところと判断し、これを棄却したことが認められるところ、本件措置要求者である控訴人村上芳信、同赤田圭亮各本人の原審供述は、控訴人村上芳信において、「時間による回復」とは、新しく給特法、それに関する覚書、了解事項で作られた休暇の一種と考えていたというのであり、控訴人赤田圭亮も、「時間による回復」がとられれば、帰宅してもよいことになるというのであるから、本件措置要求書の記載も、控訴人らの右のような認識を記述したものというべきであり、したがって、本件措置要求3の申立て趣旨に対する被控訴人の右の理解は正当であり、そして、本件措置要求3の申立て趣旨が右のようなものである限り、当該措置要求が県給特条例に反し、また、本件覚書、本件了解事項も右要求の根拠とならないことは、原判決の理由説示のとおりであるから、該当判示部分(原判決一三枚目表八行目(40頁2段16行目)から一八枚目表四行目(41頁4段5行目)まで。ただし、同一三枚目表八行目(40頁2段16行目)の「四1」を「(一)」に、同枚目裏三行目(40頁2段26行目)の「教育職員」を「教職員」に、同一五枚目裏四行目(41頁1段5行目)の「2」を「(二)」に、同一六枚目裏一行目(41頁2段5行目)の「どうような」を「どのような」に、同一七枚目裏八行目(41頁3段23行目)の「3」を「(三)」にそれぞれに改める。)を引用する(なお、控訴人らも、当審の主張においては、「時間による回復措置」の意味が、休暇を与えることではないとの旨を陳述をしている。)。

3  本件判定の正当性について

してみれば、本件判定の本件措置要求3に関する部分も適正な判断を示したものというべきであって、本件判定には、人事委員会の適法な判定を要求し得べき控訴人らの権利ないし法的利益を侵害した違法はなく、控訴人らの本訴請求は失当というべきである。なお、念のため、控訴人らの当審主張について付言すると、既述したとおり、教育職員の時間外勤務に対しどのような考慮をするかは、原則として学校長の裁量に委ねられているものというべきであり、当然に超過勤務に対応する(一対一)時間の職務専念義務の免除、勤務の質的軽減等の措置がなされるべきことを前提に、そのような措置がとられるべき超過勤務時間の累積を認めるといった考え方は、県給特条例の趣旨に合致しないものというべきであり、また、本件了解事項のいう「時間による回復措置」の具体的内容が、その当事者である浜教組と市教委との間において未だ確定していなかったことは前述したとおりである上、地公法五五条九項の職員団体と地方公共団体の当局との協定は、拘束的な団体協約ではなく、原則として道義的責任を生じるにとどまるものであり、かつ、法令、条例、規則その他の規程に抵触しない限りにおいて許されるものであるから、本件覚書及び本件了解事項も、控訴人らの当審主張の根拠とはならない。

四  結論

よって、控訴人らの本訴請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 野田宏 裁判官 髙橋勝男 裁判官森脇勝は、転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 野田宏)

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